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ライスボウル2019の見どころ

ライスボウルでは2年連続4度目の顔合わせ。

アメリカンフットボール日本選手権プルデンシャル生命杯「第73回ライスボウル」は1月3日午後3時、東京ドームでキックオフされる。

4年連続5度目の出場で5度目の優勝を狙う富士通フロンティアーズと、2年連続13度目の出場で18年ぶり2度目の日本一を目指す関学大ファイターズによる2年連続4度目の顔合わせ。過去3度は富士通が、2015年33―24、2017年30―13、2019年52―17で勝利している。

今回も富士通の下馬評が高いが、関学大にとっては名将鳥内秀晃監督の勇退試合。何としても日本一になって恩返ししたいところ。一方、富士通山本洋ヘッドコーチには就任初年度での戴冠がかかる。日本協会・国吉会長は甲子園ボウル、ジャパンXボウル(JXB)でそれぞれ死闘を繰り広げた両チームに対し、最高のゲームを期待した。

最大の注目は富士通RBグラントVS関学大ディフェンス陣

JXBで逆転の75ヤードTDランを決め、MVPに輝いた富士通の新人RBサマジー・グラント(24)。今季のXリーグでもMVPと最優秀新人となったその変幻自在のプレーに、関学大のDL、LBがいかに立ち向かえるかが、勝敗のカギを握ると言えるだろう。

関学大・鳥内監督は対戦発表会見で「学生レベルでは止めるのは不可能。彼は試合出ん方がいい」とけん制しながらも、グラント対策を思い描く。まずは、ボールセキュリティーの甘さを付くこと。JXBでもファンブルロストがあり、最後までボールキャリアを追う関学大伝統のパシュートで、その再現を狙う。

主将のDL寺岡芳樹(4年)は「グラント選手は、ボールをもらう時には速度がついている。だから、みんなで足をつかむしかない」とやる気満々。鳥内監督は「1人で止めるのは絶対に無理。オープンに走られたら、飛び込んで行かせる」と若さの爆発に期待している。

寺岡主将はチームのディフェンスとして「まず、ランを止める」ことに主眼を置く。それは「ランが出ている間は、ランとパスを織り交ぜてくる」との想定から。「みんなでパシュートして、囲んで止める確実なタックルが必要。横にも縦にも飛び込んで、つかんで離さない」と諦めないプレーを誓った。

関学大では今季はグランド改装があり、その間、兵庫県三田市の千刈キャンプ場にこもってトレーニングしてきた。「その結果、体力的な成果が出ている」という。甲子園ボウルでは、第4Q勝負で勝利をもぎとり、「誰が出てもできる選手層の部分で粘りが効いた」と寺岡は胸を張った。

一方、RBグラントの走りを支えるのは、オールXが4人いる富士通OL陣。選出8度目のT小林祐太郎(31)を中心に壁と走路を作る。グラントはJXBでMVPを獲得したプレーを「後半持ち返せたのはみんながいたから」とOL陣に感謝した。ライスボウルではJXBを超える好プレーを誓うグラント。その走りを関学大ディフェンス陣がストップできれば、自ずと勝機も見えてくる。

関学大QB奥野―WR阿部のホットラインはどこまで機能できるか

甲子園ボウルを前に「今年は自分がやらないといけない。エースQBとしてチームを勢い付け、リズムを作って、ウチが大学日本一になる」と話していた関学大QB奥野耕世(3年)。WR阿部拓朗(4年)との連係はすばらしく、第2Qの連続TDパスでチームにリズムを与え、阿部はMVPに選ばれた。「奥野と練習してきて、息の合ったプレーができた」と阿部は胸を張った。

そんな阿部はリーグ戦同様に「挑戦する気持ち」でライスボウルに臨む。しかし、その前には富士通の強力ディフェンス陣が立ちはだかる。副将のOLB趙翔来(25)は「関学大はスペシャルプレーが目立ちがちだが、タイミングのあったランプレー、パスプレーが怖い。そこを止めたい」と警戒しながらも、「ランプレーをまず、きっちり止めて、パスプレーになったら、奥野君にプレッ

シャーをかけて投げミスを誘いたい」と自由にはプレーさせない構えだ。
趙がディフェンス陣で最も期待するのは、オールXに今季で7回選ばれたDBのアルリワン・アディヤミ(29)。「WRの阿部君をしっかり追える」とそのポテンシャルを信頼している。さらに、趙はDEジョー・マシス(24)の名を挙げた。186センチ、118キロの巨漢。「学生のプレーをぶっ壊してくれることに期待している」。

富士通・高木にかかる日本人QBへの期待

富士通は11月17日のリーグ最終オービック戦。エースQBマイケル・バードソン(26)がアキレス腱断裂で途中交代を余儀なくされた。代わったQB高木翼(27)は落ちついて攻撃をリード。チームの逆転勝ちに貢献した。初先発した同30日のJXB準決勝では、エレコム神戸を相手にWR中村輝晃クラーク(31)らにTDパス4本を投げ分け、31―13での快勝を演出した。

高木は「バードソンがケガで、一生一度のチャンス」と意気込んだJXBでも、前半に中村へTDパス2本を決め、リズムを作った。第3Qにパナソニックディフェンス陣にからQBサック3回、逆転のインターセプトTDを食らう場面もあったが、第4Qに決勝点となるプレーの起点となった。中村は「外国人QBではなく、高木で勝ったのは大きい」と日本人コンビで勝利に貢献できたことに胸を張った。

11月のオービック戦最終プレーで、相手の逆転FGをブロックしたDBの樋田祥一(34)は、高木の奮闘に刺激も受け、「ライスボウルは外国人の差があると言われるが、日本人でもここまでできるところを大学生に見せたい」と腕をぶす。バードソンを欠き、緊急事態にもあると言える富士通だが、QB高木を軸に日本人選手たちの結束は堅い。

スピードでは負けない関学大RB三宅、パワーのRB前田

12月1日の西日本代表決定戦。立命館大との大一番で関学大RB三宅昴輝(3年)が快走した。第1Qに71ヤード、37ヤードのあっと驚くTDランで21―10の勝利の立役者となった。174センチ、74キロの体で40ヤードを4秒5で走るスピードの持ち主。甲子園ボウルではTDランこそなかったものの、第4Qの2点コンバージョンなど、得点につながるプレーを要所で見せた。
関学大には173センチ、82キロのパワー系RB前田公昭(2年)もいて、三宅と交代で走り抜ける。甲子園ボウルでは2TDを決めた。圧巻は第3QのTDラン。敵陣42ヤードからの攻撃でエンドゾーン左へ一気に走り込んだ。第4Qにはゴール前1ヤードからダイブを成功させ、逆転勝ちを演出した。
鳥内監督も「ウチのランは向こうより速い。1発、2発かわしてくれたらいける」と期待する。
関学大OBで富士通OLBの山岸明生(24)は「レシーバーの阿部をマークする」としつつ、「RBの三宅、前田は学生屈指の選手。思い通りの仕事はさせない」と先輩の意地を見せる決意。そして、「ライスボウルで関学とやれる。こんなに幸せなことはない。敬意を持って全力で戦いたい」と後輩にエールも送った。

名将が有終の美を飾るか、知将が門出の年に無敗記録を伸ばすか

1992年の就任から28年、鳥内監督は日本の学生フットボールをけん引してきた。DBとKだった選手時代、日大に4連敗した甲子園ボウルには15回出場して12回優勝(97年の両校優勝1回を含む)。ライスボウルも2001年度に1回制し、日本一にも輝いた。今季を最後に勇退するだけに、ぜひとも有終の美を飾りたいところ。対戦発表会見では「ライスに負けた後の1年は暗いシーズンになるが、今回負けたら一生暗くなってしまう。1年目の人は負けてくれへんかな」と得意の鳥内節で、就任1季目の富士通山本HCをけん制した。

最後となる鳥内マジックも期待がかかる。甲子園ボウルの勝利監督インタビューでは「ライスボウルではおもろいことをやろうと思う」と話しており、どんなスペシャルプレーが飛び出すか、ワクワクせずにはいられない。

一方、対戦発表会見での鳥内節にタジタジだった富士通山本HCだが、静かに闘志を燃やしている。RB、WRとして富士通でプレー、2006年の引退後はRB、WR、TEなどのポジションコーチを歴任した。14年度にはアシスタントHCとして、ライスボウル初制覇にも貢献。17年からの2シーズンは米国サンディエゴ州立大にコーチ留学し、その戦術に磨きをかけてきた。
特長はその目配り。副将のOLB趙によれば「山本さんは本当に細かい部分を見てくれる」という。例としては「タックルの練習で1歩踏み込めていないと、こだわれと言ってくれる」とのこと。また、キッキングでも「不安なところを練習でつぶしてくれるので、すごく助かる」と厚い信頼を寄せる。

山本HCは「ヘッドコーチという立場で初めてライスボウルで試合をするが、大きな意識は持たずに、いい勝負をしたい」と平常心で臨む。その一方で「鳥内監督は戦術的に凝ったことをやるイメージがある。過去の試合でやられたことも含め、いろいろ想定していく。仕掛けがあることを頭に置きながら、ゲームプランを組んでいく」と対策にも余念がない。富士通はライスボウルで過去4戦4勝。無敗記録を伸ばして、オービックの持つ4連覇に並べるかも注目される。

(日刊スポーツ新聞社 吉池彰)