ライスボウル2019の見どころ
ライスボウル2019の見どころ
★ライスボウルでは2年ぶり3度目の顔合わせ。
アメリカンフットボール日本選手権プルデンシャル生命杯「第72回ライスボウル」は1月3日午後3時、東京ドームでキックオフされる。
対戦は、3年連続4度目の出場で4度目の優勝を狙う富士通フロンティアーズと、2年ぶり12度目の出場で17年ぶり2度目の日本一を目指す関学大ファイターズ。過去2度の対戦では富士通が、2015年33―24、2017年30―13で勝利しており、今回も関係者からは富士通有利の意見が多いが、日本協会・国吉会長は試合巧者の関学大の奮闘に期待を寄せる。
ライスボウルで過去3戦負けなしの富士通が全勝記録を伸ばすか、関学大が対戦三度目の正直で勝利をもぎとるか、注目される。
★関学大の3枚QBと富士通守備陣との対決が最大の注目
3番・奥野耕世(2年=関学高)、10番・光藤航哉(4年=同志社国際高)、18番・西野航輝(4年=箕面自由学園高)。関学は特長の異なる3人のQBが、それぞれにマッチした状況でフィールドに登場する。12月16日の「甲子園ボウル」でも3人が活躍した。
奥野はパスに加え、要所でスクランブルランを見せて勝利に貢献。大会最優秀選手賞に加え、チャックミルズ杯・年間最優秀選手賞を獲得した。第1Qの立ち上がり、奥野はWR阿部へのパスなどでファーストダウン獲得を続け、先制TDを演出した。さらに、同点に追い付かれた場面では、自身のランを足がかりに、連続FGに結びつけた。
主将の光藤は第2Q、守備陣が作り出した得点機に、自身でTDラン。さらに第3Q終盤には、チームの勝利を決定づけるTDパスを決めた。また、西野はロングパスで存在感を示した。
鳥内秀晃監督は「3人のQBを使い分け、向こうのディフェンスがバテるように走らせる」と多彩な攻撃を思い描く。「奥野には短いパス、光藤には(パスとランの)両方、西野には強肩と足の速さがある」と期待する。光藤は「個性を生かして、リズムを作ってドライブしたい。キャプテンとしてチームに勢いをつけたい」と意気込んだ。
迎え撃つ富士通は、元主将のベテランLB鈴木将一郎(39=専大)が「関学大はQB3枚の併用なので切り替えて守る」と準備に余念がない。一方で、ジャパンXボウルでIBMのQB2人に走られたことも踏まえ、「奥野君はけっこう走るので、ライスボウルに向けて修正しなければいけない」と警戒した。藤田智HCも「一本に絞らせないのが関学。QB3枚への対応はVTRを見て研究する」と話した。
★富士通の新エースRBニクソンを関学大守備陣がパシュートできるか
富士通には今季、強烈なRBが生まれた。昨年まではLBだったトラショーン・ニクソン(26=米ニューメキシコ州立大)がその人。186センチ、106キロの体格、40ヤード4秒62のスピードを生かし、リーグ戦5試合で75回817ヤードを走り、13TDでXリーグ記録を更新した。2018年Xリーグ最優秀選手に加え、「ジャパンXボウル」でも3TDでMVPを獲得した。
関学大・鳥内監督は「ニクソンは止まりません。ディフェンスがタックルするのは無理」と言いながら、その対策に余念がない。中央突破を許さないため「ニクソンは(彼がDLを)脱ける前までが勝負。そこまでに変化しないとしょうがない」と、関学大伝統のパシュート(ボールキャリア追跡)の精度を上げ、「ドライブされても、一発では持っていかれない」ことをもくろむ。主将の光藤は「全員でパシュートをやってきた。どこを走られても全員で止める」と気合を入れた。
関学大には「甲子園ボウル」でQBサック1回、インターセプト1回を決めた182センチ、105キロのDL三笠大輔(4年)を柱に、その後ろには天才LB海崎悠(2年)の追手門学院高コンビが鉄壁の守備ゾーンを敷く。海崎は「甲子園ボウル」の第3Q、早大の残り1ヤード第4ダウンギャンブルで、相手RBをきっちり止めた。今回も勝負強さを見せたいところだ。
★OL陣のデキが両チームの得点のカギを握る
攻撃ではQB、RBらにどうしても注目が集まるが、彼らが活躍するためにはOLの働きが欠かせない。
関学大QB奥野が「甲子園ボウル」でのプレーについて「パスラッシュをOL(オフェンスライン)が守ってくれたので、しっかり投げられた」と言えば、富士通RBニクソンは「ジャパンXボウル」に関して「OLが良くブロックしてくれたので走れた」と、ともにチームの仲間に感謝した。
関学大は186センチ、120キロのRT光岡昌典(4年=箕面学園高)が中心。2018秋の関西学生1部リーグベスト11の光岡をはじめとするOL5人が、相手ラインの突進に正面から立ち向かう。
また、富士通は190センチ、110キロのT小林祐太郎(30=日大)が今季も健在だ。「ジャパンXボウル」では第1Q、IBMに先制FGを許した直後、ニクソンの中央突破、67ヤードTDランを演出した。「1プレー1プレーに集中できた。ライスボウルでも圧倒したい」という2016世界選手権日本代表の言葉には、重みがある。藤田HCは「ラインは今シーズン良い仕事をしている。誰かに期待するのではなく、5人そろって同じ仕事をしてもらう」と、Xリーグ相手チームのアメリカ人との対戦に向けてのトレーニングでレベルアップしたOL陣の対応力に自信を見せた。
★両チームのレシーバー陣は活躍できるか。バランスのある攻撃が勝敗を左右する
富士通は前回大会、QBコービー・キャメロンとWR中村輝晃クラーク(30=日大)のホットラインで連覇を果たし、大会MVPにはキャメロンが輝いた。そのキャメロンが引退。今季は新QBマイケル・バードソン(25=米マーシャル大)とレシーバー陣がパスプレーを行っているが、コミュニケーションは、まだ道半ばと言える。
バードソンは、リーグ戦でのパスは121回投げて78回成功した。2017年キャメロンの同128回で78回成功を、成功率で若干上回る成績を収めたが、TDパスは7本でキャメロンの10本から3割減となった。
バードソンの「ジャパンXボウル」でのTDパスは1本で、残り4本のTDは自身の1本を含むランで決めた。藤田HCは「もうちょっとパスを決めてバランスを取らないといけない。QBとレシーバーのコンビネーションを進め、ディフェンス対策を立てる」と攻撃が単調にならないよう、かぶとの緒を締めた。これに応えるかのように中村は「JXBは良い勝ち方だったとは思うが、レシーバーとしては物足りなかった。ライスボウルではレシーバーとQBで良いパフォーマンス見せたい」と気持ちを新たにしている。
対する関学大も「甲子園ボウル」でのTDパスは光藤の1本だけ。しかも、ゴール前1ヤードからで、「ライスボウル」ではロングTDパスが期待される。パスが決まれば、地上戦では不利でも、空中戦で優位に立てる。それには強肩QB西野の奮闘が不可欠。光藤は「西野の体の強さ、遠投力にビッグプレーを期待している」と話す。そして、レシーバーとして注目されるのがWR小田快人(4年=近江高)。リーグ戦で26捕球427ヤード2TDを獲得、関西リーグベスト11にも輝いた安定したキャッチングに期待せずにはいられない。
★「規格外」の富士通VS「予想外」の関学大
12月18日の大会記者発表懇親会。関学大・鳥内監督が「規格外」という言葉を連発した。その対象は富士通のRBニクソンとQBバードソン。とくに195センチ、110キロのバードソンについては「あのQBはでかすぎ。あいつあかん。あの大きさは規格外。2、3年生が鎖骨でも折られたらかなわん」と、お手上げの姿勢を見せた。それでも「力が劣っていても、こういうやり方で対抗できるというところを見てほしい」と対策を練る。
そんな鳥内監督にファンが期待するのがスペシャルプレー。同懇親会では「今年は作戦なし。スペシャルプレーも考えない」と言って、記者をけむに巻いたが、すでに準備しているのは間違いないところ。「甲子園ボウル」のVTRを分析されても分からない「予想外」のプレー、”鳥内マジック”が「ライスボウル」では必ず見られるものと期待してやまない。
(日刊スポーツ新聞社 吉池彰)